ピンクな君にブルーな僕


夏は嫌いだ。
ヒイロ・ユイは無表情の下でそんなことを思っていた。
何故なら。

「だーっ、暑いから触んなって言ってるだろ!!」

触れようとする度、暑いからという理由でするりと腕の中から抜けていってしまう。
好きだから、抱き締めたい、触れたいと思うのは当然ではないか。
なのに、「暑いからイヤだ」。
そんな無碍な一言で逃げられてしまうのだ。

───デュオは本当に俺のことを愛しているのだろうか。

そんな柄にもないことを考えてしまうのも仕方なかろう。


「なぁ、せっかく地球にいるんだし、海行こうぜ海!!」

空調の効いた部屋で何故かうちわ(何故そんなレトロなものがここにあるのかと言えば、先日行われたAC時代以前のJAP地区の夏の風物詩を再現したとかいう夏祭りで配っていたものをデュオが珍しがって手に入れて来たのだ)を片手に持って、ヒイロがひとり悶々と悩んでいるのも知らず、その悩みを齎した張本人はあっけらかんとした明るい笑顔でそんなことを言ってくる。
「海……?」
いつもの無表情に一層磨きの掛った、いっそ凄んでいると言っても良いヒイロの表情もデュオには通じない。
「そーそー、お前こんなくらーい部屋でパソコンばっかしてると、そのうちモヤシみたいになっちまうぞ!せっかく夏なんだからさぁ、もっと健康的なコトでもしようぜ!」
「………健康的」
じーっと、デュオを上から下まで眺めてみる。
今日のデュオの服装は上は薄いランニングシャツに下は短パン。
……なるほど、健康的、というか………………
「…………な、お前今ナニ考えた?」
下からデュオの顔に視線を移せば、デュオの顔は何処か引き攣っている。
「………いや、別に。」
こんな時に表情が顔に出ないというのは便利なものだ。
ふるふる、と首を振ればデュオは疑わしげにしながらも追求はしなかった。
「だからさぁ、海ー!!」
「一人で行けば良いだろう」
「お前な、一人で海なんか行ったってつまんねぇに決まってるだろ!!」
「だったら、」
誰か他の奴でも誘えば良いだろう、と言いかけて、しかしデュオが他の人間と出掛ける図を想像するとそれも気に食わない。
「なーヒイロぉ、良いじゃねぇか1日出掛けるぐらいー!!」
ヒイロが何か言いかけて口を噤んでしまったのをここが落としどころと思ったのか、デュオはうちわを放り出すと椅子に座っているヒイロに後ろから抱き着いて来た。
「……っ、デュオ…………」
「な、行こうぜ?オレ、お前と一緒にいきたい………」
ヒイロの耳元に微かなデュオの吐息が当たる。
しばらく触れられなかった(←デュオが嫌がった所為で)彼の体温がすぐ側に在る。
「……………デュオ………………」
思わず、その背に腕を回してその身体を抱き寄せようとした。

が。

「きーまり。な?」

またもや、するりと逃げられた。
「…………………」
思わず恨めしげな視線を向ければ、デュオは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「海で涼しくなれば、お前の『希望』にも応えてやれるかもしれないぜ?」


「……………………………………………………………」

なるほど、それも良いかもしれない。とヒイロは思った。
海の中。岩の陰。
場所に困ることはないだろう。(?)
デュオの水着姿、というのも悪くはない。

「………分かった。いつでも出れるように用意しておけ」

夏。………好きではないが、悪いことばかりでもないかもしれない。
楽しげに準備を始めたデュオの後ろ姿を眺めながら、ヒイロはそう思った。


7月。まだまだ夏は始まったばかりだった。


Fin


■ バカ話第1弾。……というワケでもないか?          ■
■ おバカなヒイロにもっと妄想して貰うつもりが、意外にまともな ■
■ ヒイロになってしまいました(笑)まだまだ私も修行が足らんね。■



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